HPVワクチンの積極的勧奨の中止に関して

昨日の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議で、HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えることが決定されました。
昨夜より多くのメディアがこの事を報じていますが、「積極的な勧奨の中止」を国民がどう受け止めるのか、その結果としてどのような行動変容が起きるのか、注目していかなければならないと思っています。

今回の決定については、評価が難しいなというのが正直なところです。
余りにも様々な事柄が絡み合うものですから、単純に良かった、悪かった、という評価はしにくいです。
ただし、今回の決定に至った議論と結論に持たせた意味を踏まえて行動していくことが関係するすべての人たちに求められますし、これからの取り組み、行動が、今回の決定についての評価を大きく左右するものと思われます。
評価はその段階でなされるべきものではないかな。

今回のHPVワクチンにかかる件は、我が国の予防接種制度にかかる意思決定プロセスの拙さ、各種サーベイランスの不十分さ、国民の予防接種や医療、科学といったものに対する理解不足等がもたらした事柄だと考えています。
もちろん、誰が悪いとかいうものではなく、まさに今、それらの改善を進行形で進めている中で生じてしまったことであります。

4月1日から改正された予防接種法についての議論を中心に進めていた予防接種部会においても、HPVワクチンの取扱いについては混乱がありました。
私も過去にMRICに拙文を投稿し、公費助成にかかる意思決定について、少し嫌味な意見を表明しましたが、
http://medg.jp/mt/2010/09/vol-276.html
今回のような事態は、起こるべくして起きたと言えるかもしれませんし、その遠因はその時に指摘した理不尽さにあるのではないでしょうか。
繰り返してはいけないことのひとつだと思います。

昨日の会議で重視されたように、接種後に健康被害を生じた事例が報告され、そのうち今も回復に至っていない事例があるという事実、そしてそれらの健康被害がワクチンの承認や定期接種化に至る議論の中で殆ど想定されていなかった事態であること、現時点では因果関係の有り無し含めて「わからない」ということが多いと考えられること、などは決して看過すべきものではないでしょう。
選挙区的勧奨が中止されている期間に、これらの課題にどのように対処していくのかが重要です。

予防接種には常にリスクが伴います。
それは、接種するリスクと接種しないリスク、言い換えれば副反応・副作用と、疾病罹患というリスクです。
しばし、リスクとベネフィットの比較とされがちですが、ベネフィットはとらなければ「ゼロ」に過ぎません。
ゼロなら誰もが受け入れやすいのですが、ゼロは無いんですよ、本当は。
一方のリスクをゼロにするなら、もう一方のリスクを受け入れざるを得ない、だからリスクはゼロにはなりません。
昨日の会議の最中、健康被害を生じた方々のことと、予防接種で防げた可能性が高い疾病に罹患した方々のことと、双方のことが頭の中にありました。
果たして機能の議論は、その双方をきちんと意識下において意思決定なされたのか、私は少々疑問を感じています。
そのことで結果が変わったかといえば、そうは思いません。
しかし、そのことを意識しているか否かは、これから先の行動に強く影響します。先にのべたように、今回の決定にかかる評価は、今後の行動如何で変わるものです。
後々、「あの決定は間違いだった」とだけは絶対にして欲しくない、してはいけません。
今回の結論が今後のより良い予防接種環境に資するものであったとなることを強く強く期待します。

最後に、昨日の会議の傍聴は一種、異様な雰囲気でした。
今までには例が無い指定席制度、傍聴者の立入禁止エリアの設定等、前回の会議の最後に起きた出来事への対応策がなされていました。
耳に入ってくる会話も、「推進派」とか「反対派」とか、委員個人への誹謗とか、従来の傍聴経験ではあまり聞いたことが無い会話が多く聞かれました。
こういったことは、すごく頭にきますし、やめていただきたい。
私は予防接種部会時代から傍聴し続けてきました。細菌性髄膜炎から子どもたちを守るワクチンの早期定期接種化をはじめ、予防接種制度の改善を強く求めていたからですが、議論の過程でも決定された事柄でも、大きな失望を抱いたり憤りを感じたりすることは決して少なくありませんでした。
思わず声を上げたくなる気持ちはわかります。
特に、自らがラグ被害や副作用・副反応被害に遭われた方やそのご家族であれば、尚更ですし、そのような方々が思わず感情を発露してしまっても、私はそのことをとがめる気持ちは無いです。
しかし、前回、そして今回と、そうした当事者やご家族では無い人が、場の雰囲気に好ましくない影響を及ぼしたようです。
子どもたちのために、ラグ被害も副作用・副反応被害も可能な限りゼロに近づけて行きたい、どうしても避けられなかったリスクについては速やかな対応による救済を実現していきたい、ということを考えるなら、敵対関係を煽り、当事者を中傷し、委員や事務方を恫喝まがいの行為で委縮させる行為は絶対に避けなければいけない行為です。
真剣に取り組む気持ちと覚悟があるなら、二度とこのような行為は繰り返して欲しくないです。

予防接種に伴う二つのリスク、そのリスクと向き合う上では、推進派も反対派も無いんです。
今回の決定を受けて、二つのリスクに最大公約数で向き合う取り組みがなされることを心から望むものです。
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